家族信託

家族信託が適さない、利用できない条件とは?

最終更新日 2022.08.30投稿日

高齢になった後の財産管理や遺産相続への対策として「家族信託」に関心をお持ちの方も多いでしょう。
ただし家族信託は万能とまではいえません。適さないケースや利用できないパターンもあるので注意が必要です。

今回は家族信託を使えない条件や向いていない事例をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

家族信託を利用できないケース

まずは家族信託を利用できないパターンとしてどういったものがあるのか、みていきましょう。

委託者(親)」の認知症が進行してしまった

家族信託は「信託契約」という一種の契約行為です。
財産を預ける「委託者」、財産を預かる「受託者」が自らの意思によって契約する必要があります。多くのケースにおいて親御さんが委託者となり、お子さまが受託者となります。

このとき、委託者と受託者の双方に意思能力がないと、有効な契約締結ができません。

たとえば委託者となる親御さんの認知症が進行してしまうと、契約締結に必要な意思能力が失われてしまいます。そうなったら家族信託は設定できません。
認知症以外にも脳卒中、交通事故などの事情で契約を締結できない状態になる可能性があります。

家族信託を利用したいのであれば、委託者となろうとする親御さんがお元気なうちに設定しておくべきといえるでしょう。

財産を託せる親族がいない

家族信託を利用する際には、財産を受託者に預けて管理してもらう必要があります。
たとえば不動産の管理や売却を任せたり預貯金の出金や支払いなどをしてもらったり、あるいは株式を運用してもらうケースもあります。

このような重大な事項を任せるのですから、信頼して財産を託せる親族がいなければ、家族信託は利用できません。たとえば天涯孤独な方、子どもはいるけれど仲が悪い方などの場合、家族信託を利用できない可能性があります。

ただし受託者は「実の子ども」である必要はありません。
甥や姪、もっと遠い親戚や養子であっても受託者になれます。受託者になるのに特別な資格は不要だからです。子ども以外の親族でも信頼できる方がいれば、家族信託を設定できる可能性があります。

もし家族信託を利用されたいのであれば、「親族がいない」とあきらめる前に専門家までご相談ください。状況に応じてアドバイスをさせていただきます。

家族信託が適しないケース

以下のような場合、家族信託を利用できる可能性はありますがおすすめしません。トラブルになる可能性が高いからです。

親族間で争いがある

家族信託は、関係する親族が全員納得した上で設定するのが理想です。
反対する親族がいる中で無理に家族信託を実行すると、将来のトラブルの種になるのでおすすめではありません。

たとえば以下のような場合、家族信託を利用しない方が無難でしょう。

  • 子どもたちの仲が悪くお互いに不信感を抱いている
  • 親子仲が悪い
  • 親と長男の仲は良好だが、次男とは仲が悪い

上記のような場合、安易に家族信託を設定すると親族関係がさらに悪化したり熾烈な相続争いが発生したりするリスクが発生します。

ただし問題点を解消すれば家族信託を設定できる可能性もあります。自分では判断しにくい場合、専門家に相談して意見を求めてみましょう。

連絡をとれない親族がいる

家族信託を設定する際には「家族会議」を開いて関係者全員の意見を聞き、納得できる方法で信託契約を締結するのがベストです。
連絡をとれない親族がいるときに、無視して家族信託を進めると後にトラブルになる可能性があります。
そういった状況であれば、遺言書や後見制度などの家族信託以外の制度によって解決した方がよいケースも少なくありません。

ただし連絡をとれない親族がいる場合でも家族信託を利用できる可能性はあります。
たとえば長期に渡って行方不明になっている親族がいる場合などには、失踪宣告を申し立てた上で残った親族で家族信託を設定する解決方法も考えられます。

家族信託が適するかどうかは個別の状況によって判断が変わってくるので、迷ったときには専門家へ相談してみてください。

家族信託以外の解決方法

家族信託を利用できない場合には、以下のような他の制度によって心配事を解決できる可能性があります。

成年後見制度

親御さんの認知症が進行して信託契約を締結できない状態になってしまったら、成年後見制度を利用しましょう。家庭裁判所で成年後見人が選任されると、成年後見人が認知症となった親御さんの代わりに適切に財産管理を行えます。
ただしこの場合、親御さんご本人が成年後見人に指示を出せないので、細かい希望を実現するのは難しくなると考えましょう。

生前贈与

家族信託には節税機能がほとんどありません。
相続税対策のためには「生前贈与」が有効です。
贈与税には暦年贈与や教育資金、結婚子育て資金一括贈与、居住用不動産購入資金贈与などさまざまな控除や減税制度がもうけられているためです。

節税対策を希望するなら生前贈与を活用しましょう。

遺言

信頼して財産を託せる親族がいない場合や親族間の仲が悪くて家族会議を開けない場合などには「遺言書」の作成をお勧めします。
遺言書を作成すると、希望通りの人へ財産を相続させることができます。
法定相続人以外の孫や息子の嫁、娘婿、お世話になった人へ遺贈もできますし、法人や団体への寄付も可能です。

家族信託を利用できなくてもさまざまな解決方法がありますので、迷ったときには専門家へ相談してみてください。

安全に家族信託を活用するために

家族信託にはメリットだけではなくデメリットもあります。安全に家族信託を利用するには以下のような点に注意してみてください。

早めの対応が肝心

もっとも重要なことは「早めの対応」です。
委託者の心身が弱って契約締結が難しくなってしまったら、もはや家族信託を利用できません。
認知症が進行する前であっても、親御さん自身に気力がなくなっていたら家族信託のスキームを考えたり家族会議を開いたりする余裕が失われてしまうでしょう。

また親御さんが弱ってから家族信託を設定すると、後に子どもなどの親族が「父さんは本当はやりたくなかったけれど、兄さんが無理やり家族信託を推し進めた」などと言い出して親族トラブルにつながってしまう可能性もあります。

親御さんの希望を可能な限り実現し、スムーズに家族信託を設定するには、「元気なうち」に対応すべきといえるでしょう。

家族信託でできることとできないことを知る

家族信託では、できることとできないことがあります。遺言書ではできるけれど家族信託ではできないこと、成年後見制度なら本人の利益を守れるけれど家族信託では守れない状況も考えられます。

家族信託は万能ではないので、設定する際には「できることとできないこと」をしっかり判別しておきましょう。

専門家のサポートを利用する

家族信託は複雑で専門的な契約行為です。
法律の専門的な知識がなかったら適切な判断は難しくなるでしょう。
自己判断で適当に対応すると、後に遺留分トラブルが発生したり予想外に高額な相続税がかかったりして大きな不利益が及ぶ可能性もあります。

安全に家族信託を活用して希望を実現するには「家族信託の専門家」による支援が必要です。
日頃から多くの家族信託の事案にかかわっている司法書士であれば、ご家族の個々の状況に応じたアドバイスができます。家族会議の開催や信託契約書の作成に関するサポートも受けられるので安心していただけるでしょう。

家族信託に関心をお持ちの方がおられましたら、お気軽に相模原・町田の相続コンシェルジュへご相談ください。