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家族信託を使えば「遺留分」トラブルを回避できるのか?

最終更新日 2022.08.28投稿日

家族信託を使えば「遺留分」トラブルを回避できるのか?

家族信託を使えば「遺留分」トラブルを回避できるのか?

相続対策では「遺留分」への配慮が重要です。
遺言や生前贈与によって財産を受け継がせたい人へ集中させても、他の相続人が「遺留分」を主張すると目的を達成しにくくなってしまうからです。

家族信託を利用したら遺留分トラブルを回避できるのでしょうか?
実は近年、家族信託と遺留分についての重要な裁判例も出ています。

今回は家族信託と遺留分の関係についての法的な考え方や遺留分対策の具体的な方法を解説します。

遺留分対策が気になっている方はぜひ参考にしてみてください。

遺留分とは

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限度の遺産取得割合です。

親などの直系尊属のみが相続人の場合には遺産全体の3分の1、それ以外のケースでは遺産全体の2分の1の遺留分割合が保障されます。

遺言や生前贈与によって遺留分を侵害すると、侵害された権利者は侵害者に対し「遺留分侵害額請求」という金銭請求ができます。
請求の相手方となるのは、遺贈を受けた相続人や受遺者、生前贈与や死因贈与の受贈者などです。

1人の相続人に遺産を集中させるなど、あまりに不公平な遺言をすると遺留分トラブルが起こる可能性が高くなるので、注意しなければなりません。
たとえ長男などの特定の相続人に「100%の遺産を集中させたい」と思っても、遺留分が壁となって不可能となる可能性が高いのです。

家族信託と遺留分の関係

遺留分の対象となるのは、以下のような行為です。

遺言

遺言によって遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求の対象になります。

死因贈与

死因贈与は死亡を原因とする贈与です。これに対しても遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。

生前贈与

死亡前1年以内の生前贈与は遺留分侵害額請求の対象です。ただし当事者が悪意(遺留分権利者を害することを知っていた)の場合、それ以前の生前贈与も遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。また法定相続人への贈与の場合には、相続開始前10年間のものが遺留分侵害額請求の対象となります。

上記からすると、遺留分侵害額請求の対象に「家族信託」は入っていないようにみえます。
ということは、家族信託を用いると遺留分トラブルを避けて1人の相続人や第三者へ財産を集中できるのでしょうか?

以下で詳細をみていきましょう。

従来の考え方

家族信託と遺留分の関係については、従来から「遺留分の対象になる」考え方と「遺留分の対象外とする」考え方が対立していました。

遺留分の対象にならないとする考え方
家族信託における「信託財産」は、委託者や受益者の財産とは隔離されて管理されます。
受託者は財産管理をしますが、単に管理するだけの立場なので財産の所有者ではありません。
このように信託財産が独立して管理されることから、家族信託で委託された財産は遺産の範囲に入らず、したがって遺留分侵害額請求の対象にもならない、という考え方が有効でした。この考え方によると、家族信託を利用して信託財産にしておけば、法定相続人からの遺留分侵害額請求を避けて1人に遺産を集中させることができます。

遺留分の対象になるという考え方
一方で、家族信託を利用すれば遺留分侵害額請求を免れるのは不合理であり、信託財産に含めるべきという考え方もありました。

東京地裁平成30年9月12日の判決内容

このように両説が対立していたところ、平成30年9月12日に東京地裁で非常に重要な判決が下されました。
このケースでは、委託者(被相続人)が長男への相続を回避するために家族信託を設定しました。長男には「収益を得られない物件」に関する受益権を設定することにより、見かけの受益権のみを与えて実際の経済的な価値を与えないようにしたのです。
長男は「このような信託契約は公序良俗に反し無効」と主張して、裁判を起こしました。

結論として裁判所は「遺留分制度を潜脱しようとする家族信託は公序良俗に反して無効」と判断しました。つまり家族信託を設定しても、遺留分侵害額請求を止められないということです。

家族信託を利用しても遺留分侵害額請求を止められない

この裁判例により、現在は「家族信託によって遺留分侵害額請求を免れることはできない」という理解が定着しつつあります。

今後家族信託を利用するとしても、法定相続人の遺留分侵害額請求を避けるのは難しいと考えるべきでしょう。

遺留分を侵害する家族信託契約も基本的には有効

上記のような裁判例からすると「遺留分を侵害する家族信託契約は無効なのか?」と考えるかもしれません。
しかしそういった意味ではありません。基本的には、遺留分を侵害する内容の信託契約も有効と考えられます。

たとえば遺言や贈与について考えてみましょう。法律上「遺留分を侵害する遺言や贈与」ももちろん有効です。ただし「遺留分侵害額請求」の対象になるだけです。遺留分を侵害された法定相続人が遺留分を主張しなければ、不公平な遺言や贈与がそのまま実現されるケースもあります。

家族信託についても、同様に考えられるでしょう。
ただし「遺留分権利者に対しては無価値な財産の受益権だけを与える」といったように「遺留分の制度を潜脱するような設定方法」をすると、無効になる可能性があります。

家族信託契約を締結するときには、遺留分との関係を正しく理解して適切に対処しなければなりません。

遺留分対策方法

家族信託でも遺留分侵害額請求を避けられないとすれば、遺留分対策としてはどういった方法が有効なのでしょうか?

生命保険

1つは生命保険の活用です。死亡保険金は、「遺産の範囲」に入らないと考えられています。
保険金の受取人を指定しておけば、死亡保険金は受取人の「固有の財産」となり、遺産分割協議の対象になりません。

財産を集中させたい相続人や親類がいるなら、生命保険の受取人に指定しておきましょう。

また生命保険を受け取らせると、遺留分侵害額請求が行われた際の「支払資金」にも活用できます。
たとえば4000万円の遺産(不動産)があり2人の子どもが相続人となるケースを考えてみましょう。長男に「すべての遺産を相続させる」と遺言をしたうえで、長男に3000万円分の生命保険金を受け取らせる保険契約を締結しておきます。
この場合、次男は長男へ1000万円の遺留分侵害額請求をする可能性がありますが、長男は3000万円の生命保険金を受け取れるので、そこから次男へ遺留分侵害額を払えます。

さらに生命保険には相続税控除も認められるので、受け取らせると税額を低く抑えやすいメリットもありますし、生命保険金を納税資金にも流用できます。

このように生命保険をうまく活用すれば希望する人へ財産を受け継がせることができて遺留分侵害額対策、相続税対策にもなります。

ぜひ家族信託と併用して生命保険を利用しましょう。

生前贈与

遺留分対策としては生前贈与も有効です。
基本的には「相続開始前1年」より古い生前贈与は遺留分侵害額請求の対象にならないためです。法定相続人への生前贈与であっても「相続開始前10年」より前のものであれば遺留分侵害額請求対象から外れます。

大切なのは、「早めに生前贈与すること」です。死亡直前になってから生前贈与をすると遺留分侵害額請求の対象になりますし、相続税課税対象になる可能性も高くなります(死亡前3年に行われた贈与には相続税がかかります)。

遺留分対策、相続税対策で生前贈与を行うならなるべく元気な早期の段階で生前贈与を行いましょう。

遺留分対策、家族信託は老後問題解決コンサルタントへご相談を

相続対策で遺留分が気になっているなら、必ず専門家へ相談するようお勧めします。自己判断で対応すると、死後に遺留分侵害額請求が起こって大きなトラブルになってしまう可能性が高くなるからです。
当事務所では相模原、町田エリアで相続対策に積極的に取り組んで参りました。家族信託に関心のある方、遺留分が心配な方は一度お気軽にご相談ください。