家族信託
財産管理委任契約と家族信託の違い
最終更新日 2022.08.28投稿日
高齢になり体力が低下したときに備える財産管理方法には、たくさんの種類があります。それぞれ特徴やメリット・デメリットがあるので、状況に応じて適切な方法を選択しましょう。
今回は数ある財産管理のスキームのうち「財産管理委任契約」と「家族信託」とその違いをご紹介します。
親が高齢になってきて心配している方、ご自身が高齢になって財産管理に不安をおぼえている方は、是非参考にしてみてください。
財産管理委任契約とは
財産管理委任契約とは、預貯金や不動産などの財産管理を他者へ任せる契約です。
たとえば体調が悪くなって自分で外へ行くのが難しくなった方が、子どもに財産管理を委任して預貯金や自宅不動産などの管理を任せるケースが典型例となります。
委任事項の具体的な内容は契約によって自由に取り決めてかまいません。
ただし受任者が金融機関で払い戻しなどを受ける場合には、代理権を証明する必要がありますし、不動産を売却する場合にも委任者の同意が必要です。
また受任者には委任者が単独で行った行為についての「取消権」は認められません。
委任者ご本人が悪徳業者にだまされて不利な契約をしても、受任者が契約を取り消して保護することは不可能です。
財産管理委任契約の注意点
財産管理委任契約を利用する際、受任者の独断による行動や不正に注意してください。
裁判所などの第三者による監督が及ばないので、不正が行われても誰も気づかず放置されるリスクがあります。
また世間での認知度が低く、公正証書が作成されないケースも多く社会的な信用が不十分といえます。「安全性」は弱い制度といえるでしょう。
家族信託とは
家族信託は、信頼できる家族や親族に財産を預けて管理運用処分してもらう信託契約です。財産管理委任契約と同様に、不動産や預貯金、株式などを預けて管理してもらえます。たとえば預貯金の入出金、振り込み、株式の積極的な運用、不動産の管理売却などを任せられます。
財産管理委任契約とは異なり、行為時における委託者の個別的な同意は不要です。当初に与えられた権限にもとづいて、受託者が柔軟に対応しやすい制度といえるでしょう。
財産管理委任契約と家族信託の違い一覧表
財産管理委任契約と家族信託は似ていますが、異なる制度です。以下で違いをまとめましたので、ご覧ください。
財産管理委任契約 | 家族信託 | |
委任者(委託者)の判断能力が低下した後も利用できるか | できない | できる |
預貯金の管理(入出金、振り込み、引き落としの設定など) | 代理権の証明が必要で、金融機関によっては対応してもらえないケースがある | できる |
不動産管理売却 | 代理権が必要で、本人の判断能力が低下していると売却できない | できる |
死後の効力 | ない | ある |
受任者(受託者)の判断による柔軟な対応 | 難しい | できる |
以下でそれぞれの項目について詳説します。
委任者(委託者)の判断能力が低下した後も利用できるか
財産管理委任契約も家族信託も、「委任者(委託者)が元気なうちに締結」しなければなりません。委任者や委託者の判断能力が低下してしまったら、有効な契約ができなくなってしまうためです。この点では財産管理委任契約も家族信託も同じといえるでしょう。
判断能力が低下した後でも利用できるのは、家庭裁判所へ申立をする「成年後見制度(法定後見)」のみです。
一方で「契約後、委任者(委託者)の判断能力が低下したとき」の効果が大きく異なります。
財産管理委任契約の場合、委任者の判断能力が低下すると利用が難しくなります。
なぜなら、受任者が行動するたびに委任者による権限委任の証明が必要となるためです。
たとえば受任者が不動産を売却する際には委任者の同意が必要ですが、委任者がすでに判断能力を失っていると有効な同意ができません。委任者の判断能力が失われると、財産管理委任契約は事実上使えなくなる可能性が高いといえるでしょう。
家族信託の場合には、委託者の判断能力が低下しても問題なく効力を継続させられます。
受託者が財産管理運用、処分する際に委託者が個別に同意する必要はありません。
預貯金の管理についての違い
財産管理委任契約と家族信託では、預貯金管理方法についての取り扱いも異なるケースがあります。
財産管理委任契約によって預貯金の管理や運用を受任した場合、受任者は金融機関へ行って代理権を証明し、入出金や振り込みなどをする必要があります。
しかし財産管理委任契約の世間的な認知度や信用性が低いこともあり、金融機関によっては受任者による預金操作を認めないケースも少なくありません。
そうなったら預貯金管理を委任する意味がなくなってしまうでしょう。
家族信託であれば、「信託口口座」という専門の口座を作って管理するので、金融機関に取引操作を拒否されるリスクはありません。
より確実に財産管理を委託したいなら、家族信託を利用すべきといえるでしょう。
不動産管理売却についての違い
不動産を売却する際にも違いが生じます。財産管理委任契約における「受任者」が不動産を売却する際には、委任者が同意しなければなりません。委任者が認知症になって判断能力を失っていると、有効な同意ができず売却が不可能となってしまう可能性が高くなります。
家族信託であれば、信託契約締結時に不動産の「信託登記」を行って受託者の権限を明らかにします。受託者は単独で不動産の売却ができるので、本人の判断能力が低下しているかどうかは問題になりません。
不動産を子どもなどの親族に預けて、将来介護施設へ入居する際などに売却してもらいたいなら家族信託の利用をお勧めします。
死後の効力
財産管理委任契約と家族信託とでは、死後の効力も大きく異なります。
財産管理委任契約は、委任者が死亡すると終了します。財産の相続方法や移転先、死後の財産管理についてまで定める効果は基本的に認められません。
家族信託であれば、死後の財産管理方法や財産を受け継がせる相手先を定められます。
たとえば生前は委託者本人のために財産を管理してもらい、死後は遺された配偶者や子ども、孫のために管理してもらうなど、死後に子どもや孫に財産の権利を受け継がせる指定もできるので「遺言書代わり」に使えます。死後にも効力を継続できることは、家族信託の大きなメリットといえるでしょう。
受任者(受託者)の判断による柔軟な対応
財産管理委任契約と家族信託を比べると、家族信託の方が柔軟に対応しやすくなっています。
財産管理委任契約の場合、受任者は「代理権」を証明しなければならないので、各場面でひと手間かけなければ対応できません。金融機関に取引を断られたり、本人の判断能力低下後や死後に対応が難しくなったりする問題もあります。
家族信託であれば、受託者はあらかじめ定められた権限の範囲内で自由に財産の管理処分や運用ができます。
預貯金の払い戻しや振り込み、不動産の売却はもちろんのこと、委託者が死亡した後に遺された家族やペットへの対応、また事業承継にも応用できます。
家族信託の活用例
- 障害のある子どもが遺される場合、信頼できる親族へ居住用不動産や預貯金を託し、子どものために管理してもらう
- 委託者の死亡後は遺された妻のために財産を管理してもらい、その後は長男のために管理してもらい、最終的に孫に財産を帰属させる
「何世代にも渡る財産引き継ぎ方法の指定」ができるのは、家族信託のみです。高齢になった後の財産管理や死後の遺産相続対策として、家族信託は極めて優秀な制度といえるでしょう。
家族信託の注意点
家族信託もメリットばかりではありません。信託契約の設定や信託登記には手間がかかります。柔軟に対応できる分設定方法の幅が広く、ご家族の状況に応じた有効なスキームを組むためには専門家の関与が不可欠となるでしょう。手間とコストが発生する可能性があります。
財産管理、家族信託は司法書士へご相談を
高齢になった後の財産管理方法を検討するときには、さまざまな選択肢から最適なものを選びましょう。
当事務所はこれまで「相続コンシェルジュ」として多種多様なご家庭の財産管理や相続のサポートを行ってまいりました。相模原や町田で財産管理に不安を抱えている方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。