家族信託
遺言と家族信託の違い
最終更新日 2022.05.30投稿日
将来の遺産相続に備えるには、遺言書を作成する方法と家族信託を利用する方法があります。
この2つは似ている点もありますが、それぞれ要件や実現できることが異なるので、状況に応じて適切に使い分けましょう。
今回は遺言と家族信託の違いを町田、相模原の相続専門家が解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
【遺言と家族信託の違い 一覧表】
遺言 | 家族信託 | |
厳格な要式が必要か | 必要 | 不要 |
本人の意思のみで成立するか | 成立する | 成立しない |
2代先以降の相続を指定できるか | できない | できる |
子どもの認知や相続人の廃除などの身分行為 | できる | できない |
残された子どもを守るための対応 | 難しい | 適している |
生前の財産管理ができるか | できない | できる |
以下でそれぞれの項目について詳しくご説明します。
厳格な要式が必要か
遺言は厳格な「要式行為」です。通常時に作成できる遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、それぞれ法律の定める作成方法があります。
たとえば自筆証書遺言は、遺産目録以外のすべての部分を遺言者が自筆しなければなりません。加筆訂正の方法などにも法律の定める複雑なルールがあります。要式を守らないと遺言書が全体的に「無効」になってしまうので、作成した意味がありません。
死後に相続人間で遺言書の効果が争われ、トラブルになるケースも多く、注意が必要です。
一方、家族信託は遺言のような厳格な要式行為ではありません。「信託契約」という一種の契約であり、遺言書に比べて無効になるリスクは相当低くなります。死後に家族信託契約の有効性が問題になってトラブルになるケースもあまりありません。
本人の意思のみで成立するか
遺言書は、「遺言者1人の意思」によって作成できます。たとえば誰かに財産を遺す場合であっても、相手の承諾は不要です。誰にも知られず、1人で作成、保管してもかまいません。
一方で、誰かに財産を遺しても死後に「遺贈の放棄」をされる可能性があります。「遺贈の放棄」をされたら、対象者には財産が移転しないので、遺言者の希望通りに財産を受け継がせることはできません。
家族信託は委託者と受託者の契約なので、委託者の意思のみでは成立させられません。受託者が納得しなければ財産を預けて管理してもらえませんし、受益者や信託財産の内容、財産管理の方法なども両者で話し合って決める必要があります。
その代わり、いったん契約が成立したら受託者側の一方的な都合で簡単には義務を放棄できません。この意味で、家族信託の方が委託者の希望を実現しやすいといえるでしょう。
2代先以降の相続を指定できるか
遺言と家族信託の大きな違いとして「2代先以降の相続(財産帰属先)を指定できるか」という問題があります。
遺言書の場合、遺言者の次の世代までの相続方法しか指定できません。たとえば夫婦に3人の子どもがいて、夫が遺言書で妻に全財産を残したケースを考えてみましょう。夫としては、できれば妻が死亡したら長男に財産を受け継がせたいと考えています。しかし遺言書によって相続人を指定できるのは、「夫から妻への相続」のみです。妻が誰に遺産相続させるかは、妻自身が自由に決められます。たとえ夫の生前に妻が「財産は長男に受け継がせる」と約束して遺言書を書いていても、夫の死後に妻が遺言書を書き換えれば効果は失われます。
このように、遺言書では「2代先以降の相続」は指定できません。
家族信託であれば、2代先以降の財産の受け継ぎ方を指定できます。たとえば先の例では、夫が長男と信託契約を締結し、受益者を妻に設定すればよいのです。
夫が死亡した後は妻のために財産を管理してもらえば、妻が困る心配は要りません。妻が死亡した後の最終的な財産帰属先を長男としておけば、「夫→妻→長男」の順番で財産を受け継がせられます。2代先に限定されず、3代にわたる財産受け継ぎ方法を指定してもかまいません。このように、2代先以降の財産受け継ぎ方法を指定する家族信託を「受益者連続信託」ともいいます。
受益者連続信託を上手に使えば、直径血族以外の人(配偶者の親族など)へ財産が相続されるのを防げますし、他にもさまざまな活用方法があります。
受益者連続信託は、家族信託を利用する大きなメリットの1つといえるでしょう。
子どもの認知や相続人の廃除などの身分行為
遺言をすると、子どもの認知や相続人の廃除などの身分行為ができます。たとえば生前に認知すると家族との間でトラブルが起こりそうな場合、遺言書によって子どもの認知をする方法が有効となるでしょう。
相続人の廃除とは、被相続人を虐待するなど非行のある相続人から相続権を奪う手続きです。生前に廃除の手続きをとるとトラブルになるケースも多いので、遺言書で廃除をする方法が役に立ちます。遺言書により、相続人の廃除を取り消すことも可能です。
家族信託の場合には、こういった身分行為はできません。身分行為を行いたい場合には、遺言書を作成する必要があります。
残された子どもを守るための対応
小さい子どもや障害のある子どもを残して死亡する場合には、遺言書よりも家族信託が有効となる可能性があります。
以下では子どもが未成年の場合と障害がある場合に分けて、遺言書と家族信託それぞれの効果をみてみましょう。
5-1.子どもが未成年の場合
たとえば妻が夫と子どもを残して死亡するケースを考えてみましょう。夫には浪費癖があるので、妻は子どもにすべての財産を遺す遺言をしました。しかし妻が亡くなると夫が「法定代理人」として子どもの財産を管理します。夫に浪費癖があると、せっかく子どもに残した財産を使い込んでしまうかもしれません。そうなったら子どもの生活が守られなくなってしまうでしょう。
家族信託であれば、夫以外の信頼できる親族に財産を託し、子どものために使ってもらえます。
子どもに障害がある場合
重度の障害を持った方は、自分では財産を適切に管理するのが難しいケースも少なくありません。
子どもに障害がある場合に遺言書を書いて子どもに全財産を相続させると、財産が子どもに一括で受け継がれてしまいます。子ども自身がうまく財産を管理できなければ、子どもの生活は守られません。
このような場合、家族信託を利用して信頼できる親族にお金を託し、子どもを受益者とする方法が有効です。受託者となった親族が子どものために生活費やその他の必要費用を管理してくれるので、子どもの生活が守られます。
以上のように小さい子どもや障害のある子どもを残して死亡する場合、遺言書のみでは対応が不十分となるケースが多々あります。家族信託を有効活用しましょう。
生前の財産管理ができるか
遺言書によって指定できるのは、死後の財産相続方法や死後の身分行為の変更などです。そもそも遺言書は「死後に効力を発生させるもの」なので、生前の財産管理には使えません。高齢になって認知症などにかかり、自分で適切に財産管理できなくなったときの対応は遺言書ではできないのです。
家族信託は、生前の財産管理にも使えます。たとえば親が元気なうちに長男に住居の不動産や預貯金を預けておけば、親が認知症になった後も適切に管理してもらえます。投資用の物件、株式なども預けて運用してもらえるので、年をとって自分では資産運用が難しくなっても継続的に資産を増やしていけるでしょう。
このように、生前の財産管理ができるかどうかについても遺言と家族信託で大きな違いがあります。生前からしっかり財産管理を行っておけば、死後の相続トラブルも防ぎやすくなるでしょう。
まとめ
遺言書と家族信託は、「死後に財産を受け継がせる方法を指定できる」という大きな意味では同じ効力があるといえますが、実際にはまったく異なる手続きです。要件、方法や効果が違うので、状況に応じて適切に使い分ける必要があります。
遺言書を作成するときも家族信託を利用するときも、専門家によるサポートがあればトラブルや無効になるリスクを避けやすく、安心していただけるでしょう。当事務所はこれまで、相模原や町田エリアで相続対策に力を入れて取り組んで参りました。生前の財産管理や死後の相続対策に関心のある方は、一度お気軽にご相談ください。