家族信託

成年後見制度と家族信託の違い

最終更新日 2022.05.30投稿日

成年後見制度と家族信託の違い

将来、認知症にかかった場合に備えるには、元気なうちに財産管理についての対策をしておく必要があります。

認知症になってしまってからでは有効な対策ができないので、早めに開始しましょう。「まだまだ元気だから大丈夫」と考えて後回しにすると、高いリスクを背負ってしまいます。

認知症になった後の財産管理方法としては「成年後見制度」と「家族信託」の2種類があります。

今回は成年後見制度と家族信託の違いを相続対策の専門家が解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

【成年後見制度と家族信託の違い 一覧表】

成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
まずは法定後見、任意後見、家族信託の違いを一覧表で確認しましょう。

  • 成年後見…本人の判断能力が低下してから親族などの申立によって裁判所が「後見人」を選任する制度
  • 任意後見…本人が判断能力を失う前に、自分で選んだ任意の人と「任意後見契約」を締結し、契約にもとづいて後見人が財産管理等を行う制度

 

  法定後見 任意後見 家族信託
本人が財産管理人を選べるか 選べない 選べる 選べる
認知症になった後でも設定できるか できる できない できない
裁判所の監督を受けるか 受ける 受ける 受けない
本人を保護するための管理者の権限 同意権や取消権がある 同意権や取消権はない 同意見や取消権はない
報酬 専門家が選任されると報酬が発生する 契約によって定める(無報酬も可) 契約によって定める(無報酬も可)
財産の積極的な運用、柔軟な対応 難しい 難しい 可能
有効となる期間 本人が死亡するまで 本人が死亡するまで 本人の死亡後も継続可能
身上監護権の有無 あり あり なし

以下で、それぞれの項目について詳細をみていきましょう。

本人が財産管理人を選べるか

成年後見の場合、本人の判断能力が低下してから家庭裁判所によって後見人が選任されるので、本人は自由に後見人を選べません。弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースも多々あります。
任意後見や家族信託の場合には本人が元気なうちに自分で後見人や受託者と契約するので、将来財産を預ける人を選べます。

認知症になった後でも設定できるか

成年後見は「本人が判断能力を失った後」に親族等の申立によって後見人を選任する制度なので、認知症が進行した後でも設定できます。むしろ元気なうちは後見人が不要なので、成年後見制度を利用できません。

一方、任意後見や家族信託は「契約」なので、本人に十分な意思能力が必要です。認知症が進行してしまったら、これらの方法は利用できなくなる可能性が高いと考えましょう。

裁判所の監督を受けるか

成年後見や任意後見の場合、家庭裁判所による監督を受けます。
法定後見人は家庭裁判所や後見監督人に監督されますし、任意後見人は「任意後見監督人」という人によって監督されます。
そこで定期的に裁判所へ財産や収支の状況を報告しなければなりません。
たとえ「本人のために良いこと」であっても、自分の考えで自由に行動するのも困難になる可能性があります。

家族信託の場合、受託者は裁判所による監督を受けません。裁判所へ報告をする必要はありませんし、定められた権限の範囲内であれば受託者の判断で財産処分もできます。
ただし家族信託の場合でも、任意で「信託監督人」などの監督者をおけるので、受託者の独断が心配な場合にはそういった制度を利用しましょう。

本人を保護するための管理者の権限

法定後見人には本人を保護するための強い権限が認められます。成年後見人が同意していないのに本人が勝手に契約などの行為をした場合、成年後見人が取り消せます。これを「取消権」といいます。

任意後見人には同意権や取消権がないので、本人が勝手に締結した不利益な契約を無効にできません。家族信託の場合にも、受託者にはこれらの権限が認められません。
本人を保護する手段としては、法定後見制度がもっとも有効といえるでしょう。

報酬

法定後見の場合、後見人は家庭裁判所へ「審判」を申し立てると後見事務を行っていた期間に対応する報酬をもらえます。報酬は本人の財産から差し引かれ、金額の相場は月額2~6万円程度となっています。
専門家が後見人になった場合はもちろんのこと、親族が後見人になった場合にも報酬を請求できます。

任意後見の場合、任意後見人への報酬は契約によって定めます。任意後見人が納得すれば「無報酬」にも設定してもかまいません。
ただし任意後見人が業務を行う際には必ず「任意後見監督人」が選任されます。任意後見監督人には月額1~2万円程度の報酬が払われるので、完全に無報酬にはできません。

家族信託の場合、契約によって受託者の報酬を定められますが、無報酬にしてもかまいません。裁判所の監督は受けないので、監督人などへの報酬も不要です。

財産の積極的な運用

認知症になった後も、本人が所有している不動産や株式などを積極的に運用したいニーズがあります。
しかし成年後見制度や任意後見制度の場合、財産の積極的な運用や処分は困難となります。

これらの制度は「本人を保護する」ことに主眼をおいており、リスクが発生する行為は極力控えるべきと考えられているからです。
重要な財産の処分には裁判所の許可が必要になりますし、リスクを伴う積極的な投資など「本人が生活するのに不要な行為」は認められない可能性が高いでしょう。
たとえば合理的な理由もないのに不動産を処分したり株式の売り買いをして運用したりするのは困難です。

家族信託の場合、裁判所による監督が及ばないので、受託者が与えられた権限内において自由に財産の処分や運用ができます。

親族への柔軟な対応

本人が認知症になった後でも、子どもや孫に生前贈与をしたり介護施設に来るための交通費、手当を渡したりするニーズがあるものです。しかし成年後見制度を利用していると、こういった対応が難しくなる可能性があります。

生前贈与は本人の財産を目減りさせてしまいますし、子どもが介護施設を訪ねてくるのに本人が手当や交通費を払う必要はない、と考えられるためです。

後見人が選任されると、たとえ子どもであっても親からお金を受け取るのが難しくなるケースが多数となります。

家族信託の場合であれば、受託者が親族に手当や交通費を支払ったり孫にお年玉を渡したりなど、柔軟に対応できます。
より本人の希望に沿った対応を実現しやすくなりますし、家族の方も困惑せずに済むでしょう。

有効となる期間

法定後見であっても任意後見であっても、本人が死亡すると終了します。
死亡と同時に後見人は財産管理する権限を失うので、死亡時を基準に財産管理体制が分断される結果になります。たとえば銀行預金は死亡と同時に凍結され、相続人が遺産分割協議を成立させるまで全額の出金は難しくなるでしょう。

家族信託は、本人が死亡しても存続させられます。死亡時を基準に財産管理体制が崩れてしまわないので、スムーズに財産管理や相続手続きを進めていけるメリットがあります。
また本人の死亡後は配偶者を受益者とし、配偶者の死亡後は子どもを受益者とするなど遠い将来の財産管理についての設定も可能です。

身上監護権の有無

身上監護権とは、本人の身の回りの監護状況を調整する権利です。本人の生活状況や心身の状態に鑑みて、最適と考えられる方法で療養や健康管理、生活支援などを行います。

後見人には本人の身上監護権があるので、病院への入所、介護施設との契約や入退去、リハビリなどについて決定できます。

家族信託を利用した場合の受託者には身上監護権がありません。
認められるのは、基本的に信託財産を管理処分する権利です。ただ、家を売却して介護施設に入所するお金を用意するなど、財産管理処分にかかわる内容なら対応できます。

また受託者となる家族は、委託者である本人が介護施設や病院へ入退去する際の「キーパーソン」となるケースが多いでしょう。現実には家族として身上監護を行っていく可能性が高いと考えられます。

まとめ

成年後見制度と家族信託は似ていますが、さまざまな違いもあります。高齢になったときの財産管理や死後の相続手続きをスムーズに進めるため、両者をうまく使い分けましょう。
当事務所は相模原、町田の地域で相続コンシェルジュとして多くの方の財産管理支援や相続対策に携わってまいりました。お悩みごとがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。