家族信託

認知症に備えるための家族信託活用方法

最終更新日 2022.05.30投稿日

認知症に備えるための家族信託活用方法

認知症に備えるための家族信託活用方法

今は元気でも、将来認知症になったらどうやって財産を管理したらいいのだろう?

親が高齢となり、元気がなくなってきている。今のうちに認知症に備える必要はないのだろうか?

親御さまもお子さまも、こういったお悩みを抱えるケースが少なくありません。高齢になった後の財産管理対策は、認知症になってからでは遅いのが現実です。
早めに「家族信託」を利用して備えましょう。

今回は認知症に備えるための「家族信託」について高齢者の財産管理の専門家がわかりやすく解説します。

認知症になったら財産が凍結される?

認知症になったら、「子どもなどの親族が財産を管理してくれるだろう」と期待している方もおられます。
しかし認知症になったからといって、子どもなどの親族に「財産管理権」が認められるわけではありません。基本的には「本人」の意思でないと資産の売却や運用などはできないのです。子どもが財産管理運用処分するには「代理権」が必要となります。

認知症が進行してしまった方は、他者に有効な代理権を与えることができません。本人には契約を締結したり代理権を与えたりするための「意思能力」が失われてしまうからです。
もちろん自分でも契約を締結できないため、財産が事実上「凍結」されてしまうでしょう。

認知症になった場合のリスク
たとえば投資用の不動産や株式を保有している方が、認知症になってしまったとしましょう。
この場合、子どもが代わりに不動産会社などに依頼して投資用物件を管理することは基本的にできません。賃料が払われなくても物件が傷んでも放置せざるを得なくなる可能性があります。
子どもが株式を運用することもできないので、放置されているうちに損失がどんどん拡大してしまうリスクも懸念されます。

このように、認知症になってしまってからでは遅いので、早めに対処しておきましょう。

家族信託とは

高齢になったときの財産管理に備えるには、家族信託が非常に有効です。
家族信託は、信頼できる家族に財産を預けて管理してもらう「信託契約」をわかりやすく言い換えたものです。
家族信託を利用して「委託者」が不動産や預貯金、株式などの財産を「受託者」に預けると、契約によってあらかじめ決められていたとおりに、財産を管理処分運用してもらえます。

家族信託に登場するのは以下の3者です。

委託者…財産を預ける人

受託者…財産を預かる人

受益者…財産管理によって利益を受ける人

認知症対策で家族信託を利用する場合には、親を委託者、子どもを受託者、親自身を受益者とする例が多数です。ただし受益者を委託者以外の人に設定してもかまいません。

信託財産について

家族信託で預ける財産を「信託財産」といいますが、信託財産も自由に選定できます。
よくあるのは、預貯金や不動産、株式などを預けるケースです。また非上場株式を信託財産として「事業承継」に活用する例もあります。

認知症対策で家族信託を利用する場合、親が元気なうちに子どもに不動産や預貯金を委託し、親自身のために管理してもらうのが基本です。このように対応しておけば、親が認知症になっても財産が保全されるので、親子ともども安心できるでしょう。

家族信託は親が認知症になっても有効

認知症が進行して意思能力が失われると、本人は有効な契約締結行為ができなくなってしまいます。
そうであれば「家族信託も利用できなくなるのでは?」と考える方もいるでしょう。
実は元気なうちに家族信託の契約を締結していると、後に委託者の認知症が進行して意思能力が失われても受託者は有効に法律行為ができます。

信託契約には「意思凍結機能」があるためです。
意思凍結機能とは、信託を設定したときの意思能力が固定され、その後も継続する効果です。
信託契約を締結したときに委託者に意思能力があれば、その後認知症になっても信託契約の効果は失われません。受託者は契約時に与えられた権限にもとづいて不動産の管理運用処分、預貯金の払い戻しなどの行為を続けられます。
預けられた財産は信託財産となっているので、受託者が裁量にもとづいて管理運用できます。個別に委託者による代理権を得る必要はありません。

認知症対策で家族信託を活用する具体例

物忘れが多くなり、認知症が心配になっている

高齢になって物忘れが増えてくると「認知症になるかもしれない」と心配になる方も少なくありません。もし本当に認知症になったら、「自宅を売却して介護施設に入居したい」と考える方も多いでしょう。
しかし介護施設への入居が必要なほど認知症が進行すると、自分で不動産を売却するのは難しくなります。
そのときに「成年後見人」を選任しても、自宅の売却を裁判所が許可してくれるかどうかわかりません。

こんなときには、ご本人が元気なうちに子どもなどの家族に自宅を信託しましょう。
するとご本人の状態が悪化したときに受託者が家を売却し、売却金を介護施設の入居費用に充てることができます。

亡くなるまで財産を運用し続けたい

不動産や株式などの財産を運用している場合「できれば最後まで運用を続けたい」と考える方が少なくありません。途中で売却するよりも死ぬまで運用し、子どもたちに受け継がせたいというご希望をお持ちになります。ただ認知症になったら管理運用どころではなくなり、損失が膨らむリスクも大きく高まるでしょう。

元気なうちに財産を委託しておけば、認知症になった後も適切な方法で運用してもらえます。自分を受益者としておけば家賃収入や配当金は自分が受け取れますし、受益者を配偶者や子どもにしておけば、配偶者や子どもに収益を与えることも可能です。

認知症対策で家族信託を利用する場合の注意点

認知症対策のために家族信託を利用したい場合、以下のような点に注意しましょう。

元気なうちに信託契約を締結する

1つ目は「委託者が元気なうちに契約しなければならない」ことです。
確かに信託契約には「意思凍結機能」があるので、いったん信託契約を締結すると、その後委託者の意思能力が失われても契約は有効です。親が認知症になっても受託者である子どもは財産を管理運用できます。

しかし「信託契約の設定時」には必ず意思能力が必要です。信託契約の際にすでに認知症が進行していると、家族信託は利用できません。
家族信託で財産を守りたいなら、元気で判断能力があるうちに契約を締結しておく必要があります。

家族信託には時間的な余裕も必要

家族信託の設定には、それなりの時間がかかります。

「誰を受託者、受益者とするのか」
「どのような財産を預けるのか」
「どのような方法で財産管理してもらうのか」

最低限、こういった項目を決めなければなりません。

また委託者と受託者だけで決めて契約してしまうと、後に別の親族が不満を抱いてトラブルになってしまう可能性もあります。
リスクを避けるには、家族信託の設定前に関係者へ説明したり意見を聞いたりして、同意をとっておくのが望ましいでしょう。

家族信託を利用する際には信託契約書を作成したり信託登記を行ったり信託口口座を開設したりしなければなりません。
自分たちだけで対応するのは難しく、専門家に依頼される方が多数です。専門家に相談して契約書を作成し、登記や口座開設を終えて信託を開始できるまでにも時間がかかります。

このように家族信託を利用するためには時間的余裕が必要となるので、認知症が心配になっているなら早めに専門家に相談すべきといえるでしょう。

認知症対策は老後問題解決コンサルタントへご相談を

当事務所では老後問題解決コンサルタントとして、生前の財産管理や相続対策のサポートに力を入れています。相模原・町田エリア周辺で認知症対策が気になっている方がおられましたら、親御様でもお子様でもお気軽にご相談ください。