家族信託

障害を持つ子どもの生活を守る家族信託

最終更新日 2022.07.22投稿日

お子さまに障害があると、親御さまとしては心配になるのが当然です。

「自分が亡くなった後、この子は生活をしていけるのだろうか?」
特にお子さまが金銭的な管理も難しい状態であれば、どう対応すればよいのかわからず途方にくれてしまう方もおられるでしょう。

実はこういったケースでは「家族信託」によって解決できる可能性があります。

今回は障害を持つお子さまや引きこもって働けない状態のお子さまなどのために利用できる家族信託について、解説します。

親亡き後のお子さまの将来が心配な方は、ぜひ参考にしてみてください。

1.子どもに障害がある場合、遺言書では解決できない

お子さまに障害や病気があって自分では財産管理できない場合、どのようにして親亡き後の生活を保障すればよいのでしょうか?

1-1.遺言書の問題点

このような場合、多くの方が「遺言書を書き残そう」と考えるでしょう。遺言書により、障害のある子どもに財産を残しておけば、子どもが将来困らないだろうという発想です。

状況にもよりますが、障害のある子どもに遺言書で多くの財産を残すのはあまりお勧めではありません。
遺言書を用いると、一括で財産を給付してしまうためです。そもそも子ども自身に財産管理能力がなければ、一括で財産を譲り受けても有効活用は難しくなってしまうでしょう。

1-2.成年後見人の限界

障害のある子どもに「成年後見人」をつける方法もあります。確かに成年後見人をつければ財産管理はしてもらえるでしょう。ただ成年後見人は家庭裁判所の監視下に置かれるので柔軟な対応はできませんし、弁護士などの専門家がつけば報酬も発生し続けます。
子どもが死亡した後に残った財産についても、どのように処分・帰属させるべきか指定できません。

このように、遺言書や成年後見制度にはどうしても限界があります。
そこで利用をお勧めするのが「家族信託」の「福祉型信託」とよばれる方法です。

2.家族信託の福祉型信託とは

家族信託の福祉型信託とは、どういったものなのでしょうか?

家族信託は、信頼できる家族に財産を委託して管理・運用・処分してもらう契約です。
中でも福祉型信託は、障害のある人などの生活を守るための福祉的な目的で行う家族信託をいいます。

子どもに障害があって自分で財産管理するのが難しい場合に福祉型信託が利用されるケースが多数です。
それ以外にも、子どもが引きこもっていて自活できないケース、子どもの浪費癖がひどいので一括で財産を渡すと使い込んでしまいそうなケースなどでも利用できる可能性があります。

家族信託の設定方法

家族信託では、以下の事項を取り決める必要があります。

  • 委託者
    財産を預ける人です。福祉型信託の場合、親となります。
  • 受託者
    財産を預かる人です。福祉型信託の場合、障害のある子どもの兄弟やいとこなどの親族を指定するケースが多数です。
  • 受益者
    財産管理によって利益を受ける人です。障害のある子ども本人とするのが基本ですが、親の生前は親としてもかまいません。
  • 信託財産
    預ける財産です。預金や不動産が主となるでしょう。
  • 残余財産の帰属先(帰属権利者)
    信託契約が終了したときに財産を受け取る人です。法人でもかまいません。
    障害のある子どもが亡くなった後、受託者や孫などに残余財産を帰属させてもかまいませんし、お世話になった障害者施設へ帰属させることも可能です。

障害のある子どもが亡くなった後、受託者や孫などに残余財産を帰属させてもかまいませんし、お世話になった障害者施設へ帰属させることも可能です。

3.障害のある子どもの生活を守る「福祉型信託」の活用例

以下では障害のあるお子さまがおられるご家庭で、家族信託のうち福祉型信託を利用された具体例をご紹介します。

ケース1 生前は親のため、親の死亡後は子どものために財産を使う

Aさんには2人の子ども(BさんとCさん)があり、Bさんには障害があります。
Aさんとしては、自分の死後にはCさんに財産を預けてBさんの生活費に使ってもらえたらと考えています。

このような場合、以下のように家族信託を設定すれば解決できます。

  • 委託者…Aさん(親)
  • 受託者…Cさん(障害のないお子さま)
  • 受益者…Aさんの生前はAさん、死後はBさん(障害のあるお子さま)
  • 信託財産…預金

Aさんが生きているうちはAさんのために財産管理をしてもらい、Aさん自身がこれまで通り生活をしながらBさんの暮らしを支えられます。
Aさん亡き後はBさんのために財産管理をしてもらい、毎月少しずつ預金の中から生活費を支出してもらいます。

最終的な帰属権利者をCさんとしておけば、Cさんが財産を受け取れます。Cさんに子ども(Aさんの孫)がいる場合、孫に財産を帰属させてもかまいません。

このようにすれば、Aさんの心配も解消されますしCさんも納得しやすく、家族全員にとってメリットを得られるでしょう。

ケース2 父親の死亡後は母親、次に障害のある子どものために財産を使ってもらう

Dさん(父親)とEさん(母親)には障害のある子ども(Fさん)がいます。
Dさんとしては、自分の死後にはまずはEさんに財産を継がせたいのですが、その後はFさんの生活保障のために使ってほしいと希望しています。
ただEさんに遺言書で財産を遺贈しても、Eさんの後Fさんの生活が保障されるとは限らないので心配していました。

このような場合に福祉型信託を設定すると、Dさんの希望を実現できます。

  • 委託者…Dさん(父親)
  • 受託者…Fさんの兄弟やいとこなどの親族
  • 受益者…まずはDさん、次にEさん、その次にFさん
  • 信託財産…自宅不動産と預金

DさんがFさん以外の子どもなどの親族に自宅不動産と預金を託し、まずは自分のために管理してもらいます。Dさんが死亡した後はEさんのために管理してもらい、遺された配偶者の生活を守ります。
Eさんが亡くなったら受益者が障害のあるFさんに変更されるので、Fさんの生活も保障されますし、障害者施設へ入居する手続きを行ってもらうことも可能です。

ケース3 遺言書を併用するケース

Gさんのお子さま(Hさん)には重度障害があり、自活が困難です。
今はGさんと同居していますが、親であるGさん亡き後は障害者施設へ入所するしか考えられない状況です。
Gさんとしては、自分の死亡後に誰かにHさんのために施設の入所手続きをしてもらい、その後の費用の支払いなどを行ってほしいと考えていました。
Hさんが死亡したときにはお世話になった障害者施設へ残りのお金を寄付しても良いとの考えです。

このような場合の福祉型信託の組み方は以下のようなものとなります。

  • 委託者…Gさん(親)
  • 受託者…Hさんの兄弟などの親族
  • 受益者…Hさん
  • 帰属権利者…お世話になった障害者施設
  • 信託財産…預金や自宅不動産

上記のように家族信託を設定すれば、財産はHさんのために使われます。お金が足りない場合、受託者は自宅を売却して資金を作ることも可能です。

ただし受託者がHさんの兄弟(Gさんの子ども)などの法定相続人の場合、受託者にも一定の財産を遺さないと不満を持つでしょう。遺留分トラブルが発生するリスクも発生します。たとえば遺言書で、受託者になってもらう子どもにも法定相続分相当額の遺産を遺しておけば、受託者も納得しやすくなります。

このように福祉型信託を用いる場合、遺言書も併用すると遺留分トラブルも避けられて、より効果的に相続対策できるケースがあります。

4.家族信託、福祉型信託は相続コンシェルジュへおまかせを

親の死亡後に障害のあるお子さまの生活を保障するには、家族信託の福祉型信託が非常に有効です。
ただし家族信託の設定方法は1つではありません。ご家族の状況に応じて受益者や受託者を選定する必要がありますし、遺言書を併用すべきケースもあります。
自己判断で対応すると、死後に遺留分トラブルが発生したり思ったようにお子さまの生活が守られなくなったりするリスクも高くなってしまうでしょう。

確実にお子さまの未来を守るには、専門家による支援が必要です。
相続コンシェルジュではこれまで多くの福祉型信託の設定をサポートして参りました。
相模原や町田周辺エリアで家族信託の専門家をお探しの場合、お気軽にご相談ください。