家族信託

家族信託契約は公正証書にすべき?メリット・デメリットや作成方法を専門家が解説

最終更新日 2022.08.28投稿日

家族信託契約は公正証書にすべき?メリット・デメリットや作成方法を専門家が解説

家族信託を上手に利用すると、将来認知症になったときにも家族にきちんと財産管理してもらえて安心です。遺産相続トラブルも予防できて便利なので、関心を持つ方が徐々に増加しつつあります。

家族信託は「信託契約」という一種の契約なので、設定するときに「公正証書」を作成できます。果たして家族信託の契約書は公正証書にすべきなのでしょうか?

今回は家族信託の契約書を公正証書にするメリットやデメリット、公正証書を作成する方法を解説します。

これから家族信託を利用してみたい方はぜひ参考にしてみてください。

家族信託で公正証書は必須ではない

家族信託を利用するとき、公正証書化は必須ではありません。
自分たちで信託契約を作成し、保管していても契約自体は有効です。

以下ではそもそも公正証書とはどういった書類なのか、みてみましょう。

公正証書とは

公正証書とは、公証人が作成する公文書の1つです。公証人は公務員の1種で、検察官や裁判官、法務局長などの法律の専門家が職務を行うケースが多数となっています。

公正証書は信用性が高いので、一度作成されたら「無効」になるケースは少数です。原本が公証役場で保管されるので、当事者が保管する場合と異なり紛失リスクもありません。

金銭債権について「強制執行認諾条項」を入れておけば、義務者が支払いをしないときに権利者はすぐに差し押さえができて便利です。調停や裁判をしなくても財産や債権を差し押さえて債権回収できるので、債権者側にとっては大きなメリットとなります。

以上が公正証書の基本情報です。
1-2.家族信託と公正証書の関係
法律上、「必ず公正証書を作成しなければならない契約類型」がいくつかあります。
たとえば高齢になったときの財産管理に備える「任意後見契約」を利用する場合には、必ず「任意後見契約書」を公正証書にしなければなりません。

一方、家族信託の場合には必ずしも公正証書にする必要はありません。委託者と受託者が合意すれば契約は成立します。自分たちで文案を作成し、当事者が納得して署名押印すれば契約書として有効なので、あえて公正証書にしない方も少なくありません。

公正証書を作成するメリット

家族信託の契約を公正証書にすると、どういったメリットがあるのでしょうか?

無効になりにくい

自分たちだけで契約書を作成すると、さまざまな不備が生じる可能性があります。
必要事項を入れなかったり余計なことを書いてしまったりするケースもよくありますし、いったん署名押印した人が後になって「自分がサインしたものではない」などと言い出す可能性もあるでしょう。せっかく契約書を作成しても、場合によっては無効になってしまうリスクがあります。

公正証書なら公証役場で公証人がきちんと本人確認と意思確認をして作成するので、後になって当事者が「誰かが勝手にサインした」と主張するのは難しくなります。
公証人が内容を確認するので、必要事項を抜かして無効になることもないでしょう。

より確実に契約内容を実現したいなら、公正証書にすべきといえます。

トラブルを予防しやすい

家族信託契約を締結しても、後にさまざまな理由でトラブルにつながってしまうケースがあります。
たとえば親が子どもに不動産などの高額な資産を信託すると、受託者以外の親族が不満をもって「契約は無効だ」「実は親の意思ではないのでは?子どもが無理に作成させたのでは?」などと言い出す可能性があります。委託者と受託者の関係が悪化して、一方が契約書を破り捨ててしまうケースもあるでしょう。

公正証書が作成されていれば周囲の親族も「親の意思に反して作成された」とは言いにくくなりますし、原本が公証役場で保管されるので破棄されたり隠されたりするリスクもありません。

公正証書にはトラブルを予防しやすいメリットがあります。

証明力が高い

家族信託契約を締結しても、将来トラブルが発生したら裁判が起こる可能性はあります。
そんなとき、自分たちで作成した契約書しかなかったら無効や取消原因が認められて家族信託の効果が認められないかもしれません。

一方で、公正証書は証明力の高い「証拠」となるため、提出すれば有効性が認められる可能性が高くなるでしょう。
公正証書には高い証明力が認められるメリットもあります。

紛失リスクがない

せっかく家族信託の契約書を作成しても、自分で保管するとどうしても紛失しまうリスクがあります。
特に家族信託の効果は委託者の死後に継続するケースも多く、長期間になりがちです。
委託者が認知症になったら自分で適切に管理するのは難しくなりますし、死亡したら別の人が契約書を預かって保管しなければなりません。
このように長年が経過すると、だんだんと保管がずさんになっていずれ契約書が失われるリスクが高くなってしまいます。

公正証書にしておけば原本が公証役場で保管されるので、紛失してしまうリスクはありません。

公正証書を作成するデメリット

一方で、公正証書を作成するデメリットもあります。

費用がかかる

公正証書を作成するときには費用がかかります。

金額は信託財産の価額によって変わります。

信託財産の価額 作成費用の金額
100万円以下 5,000円
100万~200万円以下 7,000円
200万~500万円以下 11,000万円
500万~1,000万円以下 17,000万円
1,000万~3,000万円以下 23,000万円
3,000万~5,000万円以下 29,000万円
1億~3億円以下 43,000万円+(5,000万円ごとに13,000円加算)
3億~10億円以下 9.5万円+(5,000万円ごとに11,000円加算)
10億円以上 24.9万円+(5,000万円ごとに8,000円加算)

手間がかかる

公正証書を作成するには、当事者双方が公証役場へ出向いて契約書を確認し、署名押印しなければなりません。
その際、身分証明書や財産関係の資料など集めなければならない書類もいくつかあります。
手間や時間をとられることもデメリットの1つとなるでしょう。

以上のようなデメリットはありますが、トラブル防止効果や紛失リスクがないことなどからして、専門家としてはやはり公正証書化すべきと考えます。

公正証書の作成方法、手順

家族信託の契約書を公正証書にするときの手順は以下の通りです。

自分たちで家族信託契約書の文案を作成する

家族信託の契約書を公正証書にしたい場合、事前に自分たちで家族信託の契約書の文案を作成する必要があります。
公証役場では「どういった方法で家族信託のスキームを組めば良いか」などの法律相談には対応してくれません。自分たちで家族信託の内容を決めて、公証人へ伝えなければなりません。

まずは家族信託のスキームを決めてわかりやすく文章化しましょう。

公証役場へ申し込みをする

文案ができたらお近くの公証役場へ申込みをします。特に管轄の決まりはなく、全国どこの公証役場でも申込みが可能です。

日にちを決めて当事者双方が公証役場へ行く

公証人と日取りを調整し、決まった日に公証役場へ行きます。
その際、必要書類を指示されるので当日までに準備しましょう。

当事者が時間を取れない場合、代理人に作成を依頼できます。ご家族に頼んでも良いですし、司法書士などの専門家にも任せられます。

署名押印して謄本を受け取る

指定された日に公証役場へ行くと、公証人が契約書(公正証書)を作成してくれています。
内容を確認し、間違いがなければ当事者双方が署名押印し、公証人が公正証書を作成します。
原本は公証役場で保管されるので、当事者には写し(謄本や正本)が手渡されます。
大切に保管しましょう。

家族信託の設定は専門家へ

家族信託のスキームを組むときには、ケースに応じて個別的に設定しなければなりません。
きちんと検討しないと適切な契約書を作成できないので注意しましょう。
専門家に契約書作成を依頼すれば、そのまま公正証書のかたちに整えられるので、当事者の方に手間がかかりません。忙しい方の場合、公証役場への代理出頭も依頼できます。

相模原や町田エリアで家族信託に関心のある方はぜひ老後問題解決コンサルタントの司法書士までお気軽にご相談ください。