家族信託

不動産会社さまが家族信託スキームを業務に活用するメリット

最終更新日 2022.05.30投稿日

不動産会社さまは、日常的に不動産オーナーや地主の方などから物件の収益管理や売却を任される機会があるでしょう。
高齢となったオーナー様から「将来、認知症などにかかって自分では管理できなくなったときの対処方法」についてご相談を受けるケースも多いのではないでしょうか?

そんなときには「家族信託」による解決方法を提案されると喜ばれる可能性があります。

今回は不動産会社さまが顧客に対し、普段の業務において家族信託を活用されるメリットを解説します。

顧客へより上質なサービスを提供し、御社自身も業務の範囲を広げて信用を獲得できる方法ですので、ぜひとも取り入れてみてください。

家族信託を不動産業務に活用する方法

不動産関連業務に家族信託を活用するには具体的にどういった方法があるのか、みてみましょう。

そもそも家族信託とは

家族信託は、信頼できる家族に財産を預けて管理処分してもらう信託契約です。
不動産会社様の顧客の場合には、顧客(オーナー様)がご本人のご家族へ所有する不動産を信託することになります。
預けられた不動産は信託契約の目的に従って受託者(預かった人)が管理、運用、処分します。所有者であるオーナー様が認知症になったり大病を患ったり死亡してしまったりしても、家族信託を設定していれば大きな混乱や損失を回避できるメリットがあります。

家族信託を賃貸管理に活用する事例

家族信託を不動産の賃貸管理に活用する事例をご紹介しましょう。

Aさんは多数の収益物件を所有していますが、70代となり高齢です。自分ですべての物件を管理するのは負担が重くなり、対処方法に悩んで不動産会社へと相談されました。
不動産会社は家族信託を提案。Aさんは長男へ物件管理を委託し、物件は長男が管理してくれることになりました。
受益者はAさんとしたので、Aさんはこれまでとおり家賃を受け取り続けることができます。
Aさんが認知症になっても信託の効果が持続するので物件がきちんと管理されますし、Aさんの死後の財産帰属者を長男に指定しておけば長男がそのまま物件を相続できるので関係者が全員納得できる結果となりました。

家族信託を不動産売却に活用するパターン

家族信託は不動産の売却にも利用できます。
Bさんは70代と高齢になっており、将来介護施設へ入居する際には所有物件の一部を売却して資金に充てたいと考えていました。しかしその頃には体力や精神力が低下していて、自分では売却活動ができなくなっているかもしれません。
そこで今のうちに対策を練りたいと考えて不動産会社へ相談されました。

不動産会社の提案により、家族信託を利用して子どもに物件の管理処分を委ねる契約を締結しました。これにより、将来Bさんが介護施設へ入居する際には子どもに物件を売却して介護施設への入居手続きを行ってもらえる準備を整えることができて、Bさんも安心されました。

以上のように、オーナーさまが高齢になって自分では物件の管理や売却などの対応が難しくなったときでも、家族信託を利用すれば売却や買換え、新築や建替え等をスムーズに行えますし、必要に応じて相続税対策も可能です。

不動産会社が家族信託を活用するメリット

不動産会社さまが顧客へ家族信託の提案をするコンサル業務を行うと、以下のようなメリットがあります。

高齢となった不動産オーナーの不安を解消できる

オーナー様が認知症になってしまったら、不動産の活用はストップしてしまいます。
認知症になると、ご本人では有効な契約締結ができません。かといって子どもなどの親族が勝手に代理することもできないからです。裁判所で成年後見人をつけても硬直的な運用となり、柔軟な資産運用は困難となるでしょう。
御社の顧客にも「将来認知症になったら資産管理はどうなるのか?」と心配している高齢の不動産オーナー様が数多くいらっしゃるのではないでしょうか?

家族信託を利用すれば収益物件の適切な管理、運営、購入や建替えなどすべてのニーズに柔軟に対応できるので、オーナー様の不安も解消できて、不動産会社としても信頼を得られるメリットがあります。

次世代オーナーとの関係を構築できる

家族信託で不動産の管理や処分を委ねられる「受託者」や、現オーナーの死亡後の「受益者」、最終の「帰属権利者」は「次世代の不動産オーナー」となる可能性の高い方です。

家族信託を設定すると、不動産会社としてもこういった後継者と密接にやり取りをするので、良質な関係性を構築して継続的な契約につなげることができます。

他社との差別化

家族信託を取り入れている不動産会社はまだまだ少数です。
先駆けて家族信託を業務に取り入れコンサルを行うことにより、他社と差別化して御社の価値を高められるでしょう。

不動産会社が家族信託の仕組みを理解し顧客へ価値を提供できれば、顧客と御社の両方にとって大きなメリットとなります。

「家族信託」の注意点

「家族信託」を利用する際には注意点もあります。

家族信託には専門的な知識が必要

家族信託は「信託契約」という契約行為の一種です。法的な知識をもって適切な方法で設計しないと、期待していたような効果を発生させられません。
たとえば「誰を受託者、受益者とするのか」「どの資産を預けてどのような方法で管理処分させるのか」「最終的な帰属権利者を誰にするか」など、将来を見据えて的確に判断する必要があります。
浅い知識しかないのにお客様に適当な提案をして迷惑をかけてしまったら、将来的にクレームがきて信用を失ってしまうでしょう。家族信託を業務に取り入れるには、信託契約についての正確な知識とスキルをもっている専門家に相談しながら進める必要があります。

ご家族への説明と理解が不可欠

家族信託には委託者、受託者、受益者という3者が登場しますが、これらの方以外の親族にも説明を行い、理解を得ておくべきです。
親族が納得していない場合、後に親族同士でトラブルになったり「遺留分侵害額請求」などのトラブルが生じたりする可能性もあるからです。

不動産会社側がこういった配慮をきちんとしなければトラブルに巻き込まれたり、顧客のご家族に不幸をもたらしてしまったりするリスクがあるので注意しましょう。

家族信託で失敗するパターン

家族信託に失敗するパターンには以下のようなものがあります。

公正証書を作成しなかった

不動産会社の勧めによって家族信託を利用したが、不動産会社が指示しなかったために公正証書を作成しなかった
→金融機関で「信託口口座」を開設できないといわれたり、家族信託の効果を争われたりする可能性があります。

リーガルチェックが不十分だった

不動産会社が司法書士などの専門家によるリーガルチェックを受けずに書式などを使って適当に信託契約書を作成してしまった
→契約書に不備があり、信託登記ができない可能性があります。結局契約書を大幅に修正しなければならないと、オーナー様からの信頼を失ってしまうでしょう。

親族トラブルが発生した

家族会議をせずに不動産会社主導で家族信託を実行してしまった
→後に受託者以外の子どもが家族信託を知って驚き不動産会社にクレームが来る可能性があります。家族関係が壊れてしまい、当該不動産会社へは継続的に依頼せず別の会社へ管理契約を移されるリスクも高まるでしょう。

安全に家族信託を活用するために

不動産会社さまが安全に家族信託を活用するため、専門家との業務提携をお勧めします。
司法書士が顧客から聞き取りを行ってニーズを把握し、契約書を作成すれば不手際が生じるリスクはほとんどありません。複雑な信託登記にも司法書士が対応いたします。
顧客やそのご家族様の信頼感も高まるでしょう。

当事務所は相続コンシェルジュとして相模原、町田エリアを中心に相続や信託に関する支援を継続して行ってきました。認知症による資産凍結に備えた対策方法も把握しております。地元の不動産会社さまとの連携体制も強めていければと考えていますので、関心をお持ちの方がおられましたらお気軽にお問い合わせください。